横浜地方裁判所 昭和40年(ヨ)60号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕疎明によれば、申請外会社が昭和二七年八月船舶修理事業を営むため被申請人よりその所有の申請人主張の土地三二〇坪を賃料月金二〇、〇〇〇円期間三年の約定で賃借し同地に引揚船台を建造し、整備工場、修理工場、製罐場、事務所等の建物を建築し、同年一二月より営業を始めたこと、昭和二九年三月頃申請人会社の設立に伴い申請人が被申請人の承諾を得て申請外会社より右土地賃借権および右施設等の一切を譲受けその営業を引継いだこと、その後申請人は昭和三二年五月一日一六七坪余を借り増し、賃借坪数四八七坪七合七勺六才につき賃料月金三〇、〇〇〇円期間昭和三五年四月三〇日迄(三年)とする旨を約し、更に昭和三四年一〇月九日三坪余を借り増し、賃借坪数四九一坪二合一勺につき賃料額前同様、期間昭和三九年一〇月八日迄(五年)とする旨を約し、その後賃料月五〇、〇〇〇円に増額されたこと、なお、申請人は右賃貸借に附随して被申請人より東北側岸壁沿い約二四坪の使用を許容されていることが一応認められる。これに対し被申請人は右昭和三四年一〇月八日付契約をもつて従前の賃貸借契約を合意解約し、明渡猶予期間を定めたものと主張するが、右事実を肯認すべき充分な疎明がないから右主張は採用できない。
そこで右賃貸借につき借地法の適用があるか否かを検討する。申請外会社が前記賃借地上に工場、事務所等の六棟の建物を建築所有し、その後申請人会社が増改築した結果、申請人主張の如き五棟の建物(甲第二号証)となつた事実は当事者間に争いがない。ところで疎明によればこれまでの施設投資総額約二二、四五〇、〇〇〇円の内引揚船台築造費約六、一一〇、〇〇〇円、変電所関係費約一、八七〇、〇〇〇円、諸機械器具費約九、三二〇、〇〇〇円であるのに比し、建物建築費は約五、一五〇、〇〇〇円を占めており、受註高も月額約五、〇〇〇、〇〇〇円から八、〇〇〇、〇〇〇円に及ぶ規模の事業であることが一応認められ、右事実から、本件における申請人会社の船舶修理事業を営むためには引揚船台の外前記工場等の建物が重要不可欠の施設として必要であり、これらの諸施設が一体となつて賃借地全域を右事業経営のために利用して来たものであり、従つて賃借土地の現実の利用が建物の保有に向けられたものと一応推断される。また疎明によれば前記建物の新築および増築については被申請人から異議を申し出た形跡が窺われない事実が一応認められる。右の如く土地の賃貸借においてその現実の利用が建物の保有に向けられ、しかもこれにつき賃貸人から何ら異議の出た形跡のない場合には、建物の所有を目的とすることを特に明言していなくとも、特別の事情ない限りその存在を黙認したものと推断される。しかも昭和三四年一〇月八日付の契約書(甲第三号証、乙第五号証)に「引揚船渠および現在鉄骨コンクリート工場建物階下一五坪、二階一五坪一棟、木造亜鉛葺平家工場四坪六勺一棟、同一二坪一棟、同七合五勺一棟、同二坪六合二勺一棟、同六坪一棟、合計六棟の建物ならびに附属設備を使用の目的をもつて賃借するものとする」と記載されているのも両当事者が本件賃貸借が建物所有の目的であることを前提としていたという事実を裏書するものと一応認められる。以上の如く本件賃貸借は建物の所有を目的とすると一応認められるので借地法第二条第一項、同第一一条が適用され、従つて本件賃貸借は存続しているものと一応認められる。
次に申請人主張の通行権について判断する。
疎明によれば申請人はこれまで賃借土地利用の必要上事実上本件通路を使用してきたことが明らかである。ところで申請人の賃借土地が申請人主張の被申請人所有土地の一区画で東側は運河、他の三方は同地で囲繞されていることは当事者間に争いがない。従つて右賃借土地は民法二一〇条のいわゆる準袋地であると認められる。そして袋地、準袋地の要件は「或土地が他の土地に囲繞せられて公路に通ぜ」ず「池沼、河渠若くは海洋に由るに非ざれば他に通ずること能わ」ないことであるからたとえ申請人が本件土地運河側に桟橋、ウインチ等を有して海上運送による交通の便があるとしても、前記賃借土地が準袋地でないという被申請人の主張は採用できない。また囲繞地の通行権は土地の利用権にともない法律上認められる権利であり、権限に基づき土地を利用する者たる限り土地の賃借人でも囲繞地通行権を認められるのであるから、申請人は被申請人の承諾なくとも法律上当然に本件通路上に通行権を有するのである。
なお民法第二一〇条にいう公路とは公道に限らず公衆が自由に通行しうる道路であれば足りる。即ち私有地であつてもそれが私道として一般交通の用に供せられている限りは広義の道路であり、事実上公共性を有するので民法第二一〇条にいわゆる公路に含まれると解されるのである。従つて被申請人主張の如く本件通路入口(構内入口)に接着する道路が被申請人所有の私道であるとしても何ら申請人が囲繞地通行権を有することの妨げとはならないのである。 (久利馨)